「わたし、アプリコットチーズパンケーキ! とミルクティー。ホットで。えいちゃんは?」
「俺は……ガトーショコラとアイスコーヒー」
郊外の住宅街のそばにある商店街、その中でも最近できた喫茶店。
奥の4人席に座って注文が来るのを待つ。
ベージュを基調とした壁紙、厨房が見えるカウンター、そしてその横に大きな観葉植物が置かれている。
入り口はガラス戸で、外を歩く人が良く見えた。
「ミナコさん、都心に移るの断ったんだってね」
「ん、らしいな」
「あんなにおいしいケーキ作れるんだから、もっとたくさーんの人に食べてもらえればいいのになあ」
厨房で働くミナコさんは、その腕前を大手ショッピングモールのそこそこ偉いらしい人に買われていた。
しかし、ずいぶん悩んでその人からの誘いを断ったそうだ。
「まあ、あの人そういうの無理だろ」
「えーなんでよ〜優しいし美人さんだしきっとうまくいくのに〜」
お待たせしました、と木のお盆を持って、ミナコさんがやってきた。
いつもありがとうね、これ私からサービス。そう言って、注文と一緒に、クッキーが入った小皿も置いた。
「わあ〜ありがとうミナコさん!」
「ど、どうも」
ごゆっくり、厨房に戻るミナコさんを見て、ふっとつぶやいた。
「あの人、甘いから」
『What is continued?』綴/佐渡雪平
関西大学映画研究部