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KFC Diary

Filmmaking is our Blood

映画は映画だ。<『大矢哲紀監督作品』研究報告>

はじめに

どうも、映画研究部3年の大矢哲紀です。

気がつけば、はや大学3年生。

僕らの代がこの部を引退する時期も近づき、本日より開催される学園祭上映会は、僕らにとって、最後の学園祭上映会となりました。

少し寂しい気持ちもありますが、しんみりした気持ちではもったいないので、自分の作品を解説するという愚行に出ることにします。

時間に余裕のある方は最後まで、是非、お読みください。

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コマツソウタ カミング・オブ・エイジ』場面カット

作品紹介

大矢哲紀短編作品集[完全版]

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『梅田駅への列車の到着 international ver.』『部室にて。』『太陽の塔研究会』『愛とは何か』の4作品からなる短編集。これらの作品に共通しているのは固定カメラ&ワンショットで撮られているという点。その結果、映像には写らない画面外の様子は観客に委ねられ、観る人それぞれの解釈によって無限の可能性を秘めているとも言える。むろん、その結果、好き嫌いは分かれる傾向にあり、「コント」もしくは「実験映画」と呼ばれることも多数。

 

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『梅田駅への列車の到着 international ver.』

大矢哲紀初監督作品として、気合を入れすぎた結果、リュミエール兄弟の初期映画をまんまパクるという禁じ手に出た作品。「当時の作品はパブリックドメインだろう。」という理由で、そのままYouTubeに投稿した結果、なぜかそのまま、削除されずに残ってしまっている。

大矢監督がキネプレアカデミー(映画の文章講座*)で、映画評論家・荻野洋一さんの講義を受けた際、「初期の映画には当時の人々が生きた暮らしの一瞬一瞬が写し取られている」という趣旨の言葉を聞き、それに感銘を受けたことが制作のきっかけとなった。

*現在は休講となっています。

 

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『部室にて。』

もともとは『関大の出口』というタイトルで、リュミエール兄弟の『工場の出口』を関西大学正門前で再現しようとしたが、恥ずかしさのため断念。結果として「大学の新入部員が馬だったら...。」という設定で、数か所のセリフを決め、他の部分はアドリブで演技をすることとなった。

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当時の企画書

『工場の出口』には、馬が一頭/馬が二頭/馬がいないという3つのバージョンがあるが、実は本作にも茶色い馬が登場し、2人の役者が入れ替わっている「...黒ver」というものが存在する。

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初公開時の感想には『Peeping Life』への類似が指摘されたが、実際に参考にしているのは、ロイ・アンダーソン監督のリビング・トリロジー(固定カメラ×シュールコメディ)や、お笑い芸人・ジャルジャルのコントであり、日常のありふれた状況に”おかしな”存在を登場させることで、「非現実」を描く映画を演出しようとする試みであった。

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『部室にて。』続編&スピンオフ案

また、本作には様々な続編案やスピンオフ案が企画されたが、実際に作品タイトルとして実現したのは、後に作られるオムニバス作品集『自宅にて。』のみとなる。ワンカット&ほぼアドリブという作風は、この後の作品でも引き継がれており、その意味では本作が大矢監督の原点となる作品ともいえる。

 

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太陽の塔研究会

岡本太郎は「芸術は爆発だ。」と言った。本作は太陽の塔を崇拝する謎のカルトサークル「太陽の塔研究会」が岡本太郎の教えの本質にしたがって、”ある行動"を起こす様が描かれている。

2019年度前期上映会の際、素材のみで編集はされてなかったが「映画は観客が観て初めて完成する」と考えた監督が当日に編集。上映会の作品間にはリアルタイムで大矢哲紀が編集する姿(を模したモキュメンタリー映像)が上映された。

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作品の元ネタはズバリ、関根光才監督の作品『太陽の塔』で、この作品同様、ドキュメンタリーとして映研部員一人一人に「太陽の塔」について語ってもらう映像を制作する予定であったが、結果として、これまでの作風を踏襲したつくりになった。

撮影は、関西大学映画研究部の恒例行事・ピクニック撮影会(万博記念公園で行われる機材講習も兼ねた新入生歓迎イベント)で行われた。

 

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愛とは何か

エーリッヒ・フロムの引用から始まる本作は「愛」とは何かを語る主人公の姿から、「愛」を語ることの滑稽さを描いている。

共演は大矢哲紀の中学校時代からの長年の友人である梅田翔平。普段、2人でしゃべっている時の様子をそのまま写しだすことを目的として企画された作品。

撮影当日、神戸に里帰りしていた梅田翔平を神戸ハーバーランドに半ば強引に連れてこさせた大矢哲紀はスターバックスコーヒー 神戸メリケンパーク店にて、梅田と共に作品のスクリプトを考案。直後に撮影を敢行した。

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その時のスクリプト

本作には続くシーンとして、自分の父や兄に「愛とは何か」を訪ねる場面が企画されていたが、父に質問をした際、真剣な顔で「愛は語るものではない」と言われ、真顔になってしまった監督は撮影を断念した。

 

自宅にて。

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『(非)日常』『自分』『movie junkie』の3作品からなる短編集。すべての作品において監督の自宅で撮影しているという共通点がある。また、黒帯がついている点やカットの切り替えがあるなど、ワンカット×アドリブだった過去作品と比べれば、その違いはかなり大きいと言える。ちなみにオープニングロゴ・右の図は監督の家の実際の間取り。

 

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『(非)日常。』

元々は『部室にて。』の系統を汲む作品『自宅にて。』というタイトルで企画されていたが、作品の特異な構造上、『(非)日常。』というタイトルに変更された。

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作品名変更前のOPタイトル

寝ても覚めても』『ハッピーアワー』の監督・濱口竜介さんに影響を受けた大矢監督が、映画における日常と虚構の関係に興味を持ち、制作した。『ハッピーアワー』のロケ地で行われた作品上映イベントにおいて、大矢が監督に「映画における日常と(非)日常の差をなぜ描くのですか。」と質問した際、濱口監督が答えた「低予算だからです。」という答えが基になっている。

 

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『自分』

元々は2019年度前期上映会の際、『自宅にて。』3部作のうちの1本として企画されていたが、結果として完成せず、上映会では『(非)日常』のみが流されることとなった。

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『自分』のスクリプト

その後、編集データの不具合などがあり、素材のみが残った状態で半年以上放置され、お蔵入りの危機であったが、後期上映会の際、『...新作短編集』上映を急遽決めた大矢が上映前日に残された素材から改めて編集。「せっかく撮ったのなら、ゴミのようなクオリティでも作品として形に残すべきだ。」という謎の熱意で実現した作品。

 

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movie junkie

監督が前作『愛とは何か』を父に見せた際、「何か、この映画には伝えたいことがないからつまらん。」と言われたことに腹を立て、「じゃあ、お父さんやったら、どんなん作る?」と聞いた結果、生まれた作品。(そのため、大矢監督作品では初めての共同脚本となっている。)

最終的に「自宅」が舞台の作品になったため、『自宅三部作』改め『自宅にて。』の最後のピースとなった。帰省していた兄のカメオ出演シーンを撮ったことを皮切りに制作が本格的に開始。撮影は夏休みの2日間で行われた。父の名演が光る作品だが、本人はどうやら自分の演技が不服だったようである。

 

おわりに

どうだったでしょうか。

「どれだけコントと言われようが、ホームビデオだと言われようが、作り手が『映画』と言ったものは紛れもなく『映画』である。」

そう思いながら、僕は作品を作り続けています。

そして、重要なのは、そこに作品の受け手である観客がいること。

たとえ、それがつまらなくても、自己満足であっても、観た人の感想があって、はじめて作品は完成するのだと思っております。

 

だからこそ、皆さんには、ぜひ、僕たちの上映会に来ていただきたい。

そんな思いで学園祭では映画を上映しております。

上記2作品の上映予定は

大矢哲紀短編作品集[完全版]

11/1 14:45ごろ~

11/2 13:30ごろ~

11/4 12:15ごろ~

 

自宅にて。

11/1 11:00ごろ~

11/2 14:45ごろ~(『(非)日常』の上映はなし)

11/4 15:00ごろ~(『movie junkie』の上映のみあり)

11/4 13:30ごろ~

 

他作品の上映は以下のスケジュールでの進行となります!!

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入場無料・入退場自由

 

ぜひ、気になった作品をお見逃すことがないようにお気をつけ下さいませ!!

 

詳しい内容はコチラからも確認できます。

kandaieiga.jimdo.com

twitter.com

 

ではでは、是非、

皆様のご来場をお待ちしております!!

 

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