関大映研のブログ

ようこそ関西大学映画研究部のブログへ

KFC Diary

Filmmaking is our Blood

脱力と映画と私

皆さん今晩は。
いつの間にやら最高学年になっていた部員の若木です。
ブログを書く順番が回っていたにも関わらず一向に書かず
部長のKくんに「いいかげんブログを書け」と叱られたので
洋酒を片手に実に古いパソコンをタイプしています。
何を書こうかと迷うはずもなく、私の近況を書かせてもらいます。

4月にわが映画研究部を選んでくれた難儀な新入生たちとようやく
うち解けてきて、大学前の通りの坂を肩を預けながらゆっくり歩いていける
ようになった今日この頃、関西大学映画研究部の前期上映会(6/13〜6/15)が
近づいています。私は近頃その上映会に出品する作品の撮影に追われる一方で、ひどい脱力感に襲われています。

今までになかった脱力感です。私は生来ロングスリーパー(長眠者(ちょうみんしゃ))のたち
でして、睡眠時間の足りない日には授業の教室移動にも事欠くほどの眠気に
襲われます。しかしここ数日の眠さ、だるさ、苦しさは尋常でないように思われます。
どれだけ寝ても眠気が覚めず、眠ろうと思えばどれだけでも眠れるような気がします。
しかし授業だとか撮影だとかのために眼を覚まし、自転車を漕いでも
いっこうに眠気は覚めません。車道を走っていても周りの朝を急ぎながら走る乗用車
たちがまるで立体映像の様に見え、しかしまた何故か私は事故を起こしません。
高校以来大きな自転車事故というものを起こしたことはありません。

その日を何とか生き抜き、家に帰るとやはりどうしてか眠くなってきて、
風呂も浴びずにいつもより早い時間帯に布団にくるまれ、地に穴が開いたように
眠りの中に入ってゆくのですが、やはり起きても眠気は覚めません。

このところ見た『図書館戦争』という中身カラッポの馬鹿映画やそれに負けず劣らずの
欠陥だらけの『パラダイスキス』という映画のMという俳優のキザったらしい演技は
私を一層憂鬱にさせました。

官能漫画界の巨匠山本直樹氏の著作に『眠り姫』という名短編があります
(短編集『夢で逢いましょう』に収録)。
内田百聞の『山高帽子』という話を基にしているそうですが、主人公の女教師は
どれだけ寝ても眠気が覚めず、そして彼女の世界はすこしずつ変容し始めます。
ストーリーに主眼を置かず、台詞のひとつひとつに目を配ると、
何というか自分はここまで美しい漫画をこれまでついぞ眼にかからなかったような
気さえします。そして今自分は彼女の心理がわかるのです。

駄文を長々と続けて大変にしつれい(、、、、)。撮影の話をいたしましょう。今日僕は同回生の
Hくんの作品の撮影に脇役で出演すべく朝9時半に起きて朝飯を頬張り、大学へと向かいました。
結局着いたのは、約束の時間から一時間遅れた10時半でしたが、部員たちはみなみな暖かく迎えてくれました。

私は本番当日まで脚本を渡してもらえず、その場で台詞を覚えて、なんとも熱のない演技をしました。

午後からは、本番の私の作品の撮影に向かいましたが、撮影の場を提供してもらっているカフェの店長から14時から予約が入ったので今日はほとんど撮影のための時間を提供できないという報告を受け、さらには私にスケジュールの管理や撮影の態度について少し改めて欲しいとのお言葉を頂戴しました。

今日中に撮影を終えるつもりであった私は、失意のまま出演者たちと共に部室へ帰り、次の撮影のためのスケジュールを調整する作業に入りました。この時点で私の脱力感は頂点に達していたものと思われます。

私は何とか自分を奮い立たせようと、大好きな映画の話などしてその場のテンションを保とうとしていました。果てしない脱力感は容赦なく私に覆い被さり、私の口元は反比例して活発になり、政治談義などが盛り上がりましたが、どこからともなく背中に痛みが走り始め、瞼はどんどん重くなりました。

家に帰ってからもその脱力感は続きました。些細なことに鋭敏になりました。
ビール瓶2本と卵と納豆が入っただけのビニール袋が重たくてたまらず、膝から崩れ落ちそうになりました。
自分の携帯電話の着信音がいやに耳障りでした。
たった1000円少しの買い物のカード決済に「一回払いでよろしいですか?」という意味のない問いかけをされた時には、よっぽどレジ定員の頬をぶってやろうかと思いましたが、腕を上げるだけの力がないような、末梢神経にもう信号がかすかさえ残っていない様な気すらしました。
スーパー帰りに近所のKというチェーンの100円寿司屋に、土曜の夜に外まで行列を作って席を待っている家族たちを見たときは本当に気が滅入りました。
そうしてレジ袋をリビングのフローリングに降ろしたその時、私は部室にカメラを忘れていることに気づきました。

このところの雨か曇りかわからない天気は私を憂鬱にさせます。今日もそんな天気でした。こういう天気の日、夜中には必ず少しばかりの雨が降っているのだということを私は信じて疑いません。私が眠りにつくかつかないかの瞬間に、網戸の向こうからポタポタという雨の音が聞こえてくるのです。

私は日もすっかり暮れた中を、自転車を走らせて大学に向かいました。この季節というと夜には夜の湿度というものがあって、一見昼間の熱は冷めたように感じますが、私は大学への道を半分もいかないうちに汗でTシャツを濡らしました。

部室のカメラは幸いにして盗難にも遭わずにそこにありました。管理室の警備員さんにお礼をいって私はまた帰路につきました。いやにゆっくりとペダルを漕ぎました。ゆっくり漕いだところで家につくまでには汗でシャツが肌に張り付くほどになっているのはわかっているのだから、いっそのこと急いで漕いだ方が善いのに、家ではもう風呂が沸いて、母親は料理を作って待っているだろうにとわかっていても、私はもう、高校生の時分に帰りの道を同級生たちと競い合いながら自転車漕いで帰った想いでは遠くにありました。

坂道をゆっくり下っている最中。私は奇妙な光景を眼にしました。坂の側のある家の中で、ある家族たちが食卓を囲んで、黄色い電灯の下で食事をとっていました。それ自体は珍しくありません。しかし私はそれを窓ガラス越しに見たのではないのです。開け放された玄関のドアの先から見たのです。玄関の一つ向こうにリビングを置いて、テーブルを囲む家などというのは私はついぞ聞いたこともありません。私はしばらくの間その光景が眼から離れませんでした。

あるいは私の幻想なのかもしれないとさえ、思いました。脱力感に体をさいなまれ、撮影はいっこうに進まず、上映会に間に合う保障はひとつもないこの状況で、現代の日本家族の典型的な「幸せの肖像」を私の脳がスクリーンに映し出したのではないかと思いました。

そんなことを考えながらも私はやはり事故を起こすこともなく、家に帰り、家族と共にスペアリブのトマト煮を口に運び、いつものごとく白飯を2杯食いました。

明日はまた別の私の作品の撮影があります。明日も私の脱力感は続くでしょう。この脱力感が、梅雨に伴う単なる低気圧によるものであることを切に願います。

では皆さん。お休みなさい。
平成二十五年 六月一日 午後十一時五分 若木翔平

追記 
私を十三の特殊な性風俗店に誘ってくれているTくんへ。君の言動の源泉は、脱力感とは無縁のところからくるものであり、常に私への励ましとなっています。

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