お久しぶりです。映画研究部の山中です。
ついに公開されましたよ!ルカ版『サスペリア』!もうこれね、去年の夏休み前くらいにティザー画像がでたときからね楽しみにしてたんです。その画像がこれなんですが、もうたまらん…
赤い紐で緊縛されたお嬢たちが、暗闇の中で異様なポージングでたたずむこのエロ・ミステリアス・シュールな画像に脳天をブチ抜かれて一目惚れしたんです。それでこれを見た時から『サスペリア』を見るために生きてきました。
それで私はもう二回見たんですが、ほんとに凄まじいよこの映画!エログロなヴィジュアルもさることながらストーリーも作りこまれてて、山中ランキングでは『マンディ』同様、殿堂入りを果たしました!おめでとう!
ということで、今回は『サスペリア』(2019)を紹介していきます!
ふたつの『サスペリア』
おいっ、「ふたつの」ってことは、この作品オリジナルじゃねーのか?と疑問に思った皆さん、そうなんです。これはダリオ・アルジェントというオッちゃんが1977年に撮った『サスペリア』のリメイク作品なんです。で、誰がリメイクしたのかってゆうと、キヨ様が去年のベストに挙げていた『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督です。『君僕』は私もベスト1に挙げさせてもらいましたが、『サスペリア』でもやってくれましたよ。もうルカさん大好き。
ダリオ版『サスペリア』
当時のイタリアではスプラッター映画ブームが巻き起こっていて、イタリア産のグロ映画を「ジャッロ」と呼ぶんですが、そのジャンルの中でもダリオ・アルジェントは結構評価の高い人で、『サスペリア』は彼の代表作となっています。
ダリオ版『サスペリア』は、ドイツのバレエ学校に潜む魔女を描いたイタリア産のホラー映画で、激しい原色を用いたライティングと残酷なスプラッター描写が評判を呼びました。あと、主人公におメメパッチリ美少女のジェシカ・ハーパーが抜擢され、当時の中学生は怖いもの見たさと美女見たさで映画館に駆け込んだらしいです。
そして、ロックバンド「Goblin」が手掛けたBGMも話題になりました。『サスペリア』以前のホラー映画って弦楽器の金切り音とかクラシック系のBGMしかなかったんですが、ロックと民族楽器を融合させた奇抜な音楽を使って高い評価を受けました。一番有名なのが『witch』という音楽なんですが聴いてみてください!こわ気持ち悪いですよ。
ダリオ版 vs ルカぺリア
めちゃくちゃ評価の高いダリオ版をリメイクするということで、どうなることやらと映画ファンたちは期待と不安を胸にこの作品を心待ちにしていたようですが、評価は真っ二つに割れました。というのも『ルカぺリア』はダリオ版とは物語構成、演出面共に全く別物になっちゃてるんですね。それでオリジナルファンやホラー映画ファンの中に激怒する人が出てきちゃったんです。ちなみに、ダリオさん本人も『ルカぺリア』はアカン!と激おこのようです…
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『ルカぺリア』は、オリジナルの土台に政治的要素を絡めた非常に複雑で難解な物語構成で、それに合わせるためにライティングや音楽などの演出面も全く別物になってます。150分超えの長尺もあり、簡単なストーリーでグロ描写をパパっと楽しむというホラー映画のジャンルそのものをぶち壊しにかかってるんですよ。そりゃ、ブチ切れる人も当然いますよ。
ただ、評価の高いオリジナル版をただ真似して金儲けを企む作品が多くある中で、オリジナルの簡略な物語と恐怖演出のすべてに意味を与え、自身の解釈として新しいものを作り上げたルカさんは凄いことを成し遂げたといえます。
『サスペリア』:三つのテーマ
ルカ版は政治的要素が絡んで難解と言いましたが、これだけ押さえとけば大体わかるという三つのテーマを紹介します!
1.1977年のベルリン
ルカぺリアの舞台となるのが、ダリオ版が公開された年でもある1977年のベルリンです。当時のベルリンは冷戦下にあり、「壁」によって西と東に分断されており、魔女たちが潜むダンス学校は「壁」の目の前にあります。政治もナチス時代の残党が仕切っていて、それに不満をもった民衆が過激派「ドイツ赤軍」となりテロを起こしまくっている混沌とした状況です。あと「壁」と言えば、トランプさんですね。ルカさんは『サスペリア』を今だから見てほしい映画と言ってます。
バーダーとマインホフ
オープニングでラジオから「バーダー・マインホフがどやこや」と流れてくるんですが、バーダーさんとマインホフさんは「ドイツ赤軍」のリーダー的存在であり、政府は彼らの影響を恐れて、監獄に収監しています。んで彼らの解放を求めて「ドイツ赤軍」が飛行機をハイジャックして政府を脅迫します。これが「ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件」という実際にあった事件なんですが、ルカぺリアの物語の裏で同時に起こっているという設定になってます。
この事件は失敗に終わるんですが、その後、バーダーとマインホフらをはじめとする「ドイツ赤軍」のリーダー組は監獄の中で集団自殺します。「ドイツ赤軍」はカルト集団みたいな位置づけであり、それに魔女楽団が形容されてます。
ヨーゼフ・クレンペラー
ヨーゼフ・クレンペラーさんは、この作品でキーパーソンになる心理療法師のお爺ちゃんです。これには元ネタがあって、ナチスを生き抜いたヴィクトール・クレンペラーという人が基になってます。で、ヨーゼフさんにはアンケという愛妻(ジェシカ・ハーパーが演じてます)がいたんですが、その愛はナチスによって分断されてしまいます。彼はお爺さんになってからも壁の間を行き来して、かつて二人で住んでいた家に行って思い出にふけっています。また、彼が心理療法師として「舞踏団は人々に幻覚をみせている。」と魔女の存在を否定しているのも重要です。
2.魔女伝承
『サスペリア』で切っても切り離せないのが「魔女」です。ドイツの舞踏団にアメリカからやってきたスージーちゃんが、魔女の存在に気付くという物語(めちゃ適当)なんで当然ですね。
それで、これほんと偶然なんですけど、『マザー』とか『聖なる鹿殺し』とか見て聖書とギリシャ神話について学びたくなって秋学期に適当にとった「キリスト教思想研究b」てゆう授業で魔女伝承について深く学べたんです!最初のガイダンスで魔女についてやるってなったとき何か縁を感じましたよ。
魔女ってなに
はい、魔女ってゆうのはキリスト教が始まる前にあった様々な神さま信仰から生まれました。そこでは畑の豊作や健康を祈るために、畑の神様や健康の神様を祭って踊る儀式をしたり、病気を治すために漢方を作ったりしてました。しかし、キリスト教が始まると「イエス様だけが神様で他はダメ!」、「病気もイエス様が治す!」ってなって儀式とか漢方とか禁止されました。それでも森の奥とかで隠れて儀式とかをしてた人々を「魔女」とよんだんです。
とまあ「魔女」とキリスト教は深い関わりがあるんですが、主人公のスージーちゃんはキリスト教のなかでも特に厳格で質素な暮らしを重んじるアーミッシュ・メノナイト派の家の生まれです。けれどスージーちゃんは、ドイツの舞踏団のことばっかり考えて、勉学を軽んじたり、タンスに隠れてお股をまさぐったりする生粋の不良少女なんです。それでお母さんに「あんたを生んだことが私の罪」ってゆわれちゃうんです。ちなみに、スージーちゃんがドイツの駅で握りしめていたお金はメノナイト派の教会から盗んだものです。
魔女裁判
あと、魔女裁判って一度は聞いたことあると思うんですけど、これは16世紀から17世紀に西洋で盛んに行われた迫害のことです。当時の人々は、村で不作が起こったり、身の回りに不幸が起こると、怪しい人を「魔女」と認定し、彼らをスケープゴートとして拷問して殺したんです。(魔女には男性も含まれます)これの延長線上にあるのがヒトラーさん率いるナチスのユダヤ人大虐殺です。
魔女のサバト
「サバト」ってゆうのは魔女たちの集会のことで、森の奥で全裸で踊って儀式したり、赤子の人肉をすり潰して漢方薬を作ったりします。もちろんこれはファンタジーですよ。『サスペリア』では音楽学校の中に魔女が大勢いるんですが、彼女たちは現代風にファミレスで集会してましたよw
3.ダンス
『サスペリア』では、新旧どちらも「ダンス」がキーになってます。ベルリンを拠点とする舞踏団(マルコス・ダンス・カンパニー)が舞台なので、当然ダンスが重要になります。んでダリオ版のダンスはクラシックバレエだったんですが、今回は「ノイエ・タンツ」(ニューダンス)というダンスが採用されています。これ日本では「暗黒舞踏」と言われるんですが、力強く、グロテスクな動きが特徴的です。本作ではダンスが殺しの凶器として使われるのも特徴です。
マリー・ウィグマンとピナ・バウシュ
ドイツで「ノイエ・タンツ」を始めたのが、マリー・ウィグマンという人なんですが、この人の舞踏団がマルコス・ダンス・カンパニーの元ネタです。また、鬼教官マダム・ブランの元ネタは、ドイツのモダンダンサー、ピナ・バウシュという人で、ティルダ・スウィントンが演じてるんですが、見た目まんまです。
マリー・ウィグマンの代表作が『魔女のダンス』。んでピナ・バウシュの『メデューサ』ってゆうダンスが、劇中に披露される『民族』という演目の元ネタです。見てもらえばわかるんですが力強くて、グロテスクでバレエとはかけ離れた印象ですよね。
Les Médusées // Trio féminin s'inspirant de la nature ensorceleuse des nymphes de Marly
ダンスとフェミニズム
ダリオ版は、クラシック・バレエでかよわい少女たちを表現しましたが、ルカ版では「暗黒舞踏」で力強い女性を表現してます。スージーちゃんを演じるダコタ・ジョンソンは、ムッチムチで健康的な体つきをしていてエロ…じゃなくて力強い印象です。また、今回の『サスペリア』ではほぼ女性しか出てきません。クレンペラー爺ちゃんもティルダ・スウィントンが演じてるので、これもう女性の映画なんです。
ナチスとダンス
ヒトラーは、絵画や肖像などの芸術作品は魔力的な力を持ってて統治の邪魔になるからとそれらを燃やしました。で、マリー・ウィグマンの舞踏団も「気持ち悪いダンスすな!」と潰されました。ナチスは魔女の存在に気づいてたんでしょうか…
はい、以上の点を抑えとけば、だいたい理解できます!多いわ!とツっこまれそうですが、『サスペリア』はめちゃややこしい映画なんで、その点でも評価が分かれたんだと思います。
『サスペリア』感想
私はもう二回見たんですが、魔女伝承について学んでいたこともあり、初見でもなかなか楽しめました。それで興奮したんですが、この映画に『へレディタリー』っぽい演出とか設定があってニヤニヤが止まりませんでしたよ!ダンスによる殺しのシーンもドグシャアッって感じで楽しめましたね。
エンドロール後にある数秒のシーンが物議をかもしてるんですが、これはいろんな解釈ができます。複雑難解な物語構成もあって、見た後に語り合いたくなる映画なので、その点でも「決して一人では見ないでください。」です。
とまぁ、長々と書かせてもらいましたが、読んでくれてありがとうございます_(._.)_。ブログ書いてたらほんと時間が一瞬で過ぎますね…
最後に
これからは命を懸けるほど楽しみな映画はあんま無いですが、今年は『アベンジャーズ』やら『スターウォーズ』があるのでブログが流行りそうですね。それにしても2019年はディズニー祭りだワッショイワッショイですね。
冬休みは、なんか映画作りたいですが、ネタが思いつきません。進行1年生組でなんか作りたいですねー。あと、ざっとんさんがやってたスタンプ作りとかもやってみたいです。
なにげにネトフリ上映会が一番楽しみです。あんな話題の映画がちっさい画面でしか見れないなんてほんとクソですよ。特にAAA級のネトフリ限定作品がタチ悪いですよね。新作が映画館で観れないなんて…『ROMA』くらい劇場でやってくれ!全然宣伝しないしこりゃダメです。『モーグリ』、『ポーラー』、『バードボックス』、『バスターのバラード』…泣
ほんと最後ですが、なんか『ペニス映画闘争史』という講演会が元町映画館でやるらしく、行ってみたいですねー。ルカ版『サスペリア』もおちんちん映画だったんですよ。魔女のフック×おちんちんなシーンがあって笑いました。ちなみに、マイベストおちんちん映画はPTAの『ブギーナイツ』です。ありがとうございました。
そして、こんなイベントがあるんだとか...。
— 映画チア部 (@movie_cheer2015) January 30, 2019
いや、攻めすぎでしょ!?笑
『ROMA』観た時、気になってましたけど。笑
(てつ) https://t.co/WxE2KSsmjg
『マザー・サスペリオルム万歳!』